【生息域外保全とは】
希少な野生動物は、本来であれば自然の中、つまり、生まれ育った生息地そのもので守られるべき存在です。しかし、現実には、生息地内での保全(生息域内保全)だけでは間に合わない状況も少なくありません。そうした場合、種の絶滅を回避するために、生息地から人工的な施設へと一時的に個体群を移し、保存や繁殖を行って個体数の増加を図る手法が用いられます。これを「生息域外保全(Ex-situ Conservation)」と呼びます。
【人新世の大量絶滅時代】
地球ではこれまでに5回の大量絶滅があり、現在は「第6の絶滅期」にあると言われています。今回は、隕石や火山ではなく、人間の活動による生息地の破壊や気候変動が主な原因です。つまり、自然を守ることができるのも私たち人間です。行政、大学、NPO、動物園や地域の人々など、皆で力を合わせて野生動物を守る時代が来ています。
【希少野生動物の保全における動物園・水族館の役割】
動物園・水族館は、絶滅の危機に瀕する野生動物の種の保存において、重要な機能を果たす機関です。飼育下における種の生物学的特性に関する基礎研究、繁殖および血統管理、野生復帰技術の開発、さらには教育・普及啓発を目的とした展示活動など、多岐にわたる役割を担っています。そして、継続的な飼育管理を通じて得られる行動・生理・繁殖などに関する長期的データや経験知は、野外では得がたい情報資源であり、これらはフィールドでの調査研究と連携することで、種の生態的理解や保全戦略の立案において大きく寄与します。
【飼育下での保全における問題点】
生息域外保全の実施には、施設・人材・資金といった多くの資源が必要不可欠です。しかしながら、収益性の乏しい保全活動を、行政機関や民間企業の一部門である動物園・水族館が、既存の組織体制の中で継続的に担うことには限界があります。とくに、絶滅の危機が差し迫る種に対しては、迅速な意思決定と柔軟な運営体制が求められます。そのような状況に対応するため、私たちは組織の枠を越えた協働と、主体的かつ即応的な保全活動を可能とする独立機関が必要と考え、本センターを設立しました。
【野生生物生息域外保全センターの機能と専門性】
当センターは、行政、大学、動物園、水族館、昆虫館などと連携し、種の状況に応じた柔軟で機動的な生息域外保全体制の構築を目指しています。絶滅リスクの高い種を速やかに受け入れられる体制を整えつつ、多様な分類群に対応する施設環境を継続的に維持・拡充しています。当センターの強みは、対象種に適した気候・生息条件を導き出す分析力と、それを飼育環境に実装するデザイン力にあります。建築環境学の知見を活かした施設設計により得られた知見は、将来的な生息地保全への貢献を視野に、関係機関と共有しています。
当センターはこれら使命を果たすために、以下について整備・維持します
累代繁殖と系統保存のために、大きなキャパシティを持つ。
様々な種に対応するために、多様な室内外気候デザインを可能とする質の高い建築設備を維持する。
素早い意思決定と様々な状況に対応するために、フレキシブルかつ持続可能な運営形態を維持する。